イルミを綺麗に撮る方法

2018年11月26日

クリスマスが近づき、街は華やかなイルミネーションで彩られ始めていますね。
となると、スマホで写真を撮りたくなるもの。
でも、こんな写真が撮れがちじゃないですか?

ありがちな失敗作例

うおっまぶしっ!

なにも考えずに撮るとだいたいこんな感じになると思います。

明暗差が激しいシーンはカメラが最も苦手なシチュエーションで、彼は彼で全体のバランスを取ろうとがんばるわけですが、そうなると画面が真っ黒にならないかわりに極端に明るい中央の被写体(今回の例だと恵比寿ガーデンプレイスのバカラシャンデリア)が真っ白になってしまいます。こうなってしまうと、もうどんな凄腕フォトショッパーでも精緻なクリスタルガラスのシャンデリアを再現することはできません。

シャンデリアをきれいに撮るなら、スマホのカメラでも露出補正をすれば可能ですし、最近のスマホは1回でHDRという明暗差のある状況できれいに撮れる機能を搭載しているので、それなりの絵は撮れるようになっています(上の作例はiPhone8 PlusでHDRオフで撮影)。

ただ、雰囲気たっぷりの恵比寿ガーデンプレイスの建物の感じも、シャンデリアもどっちもちゃんと撮ろうとするとそれでも足りません。人間の目ほど幅広いダイナミックレンジを持たない故の「仕様」で、このへん何を重視するかという問題ではあります。ただ、今回の手法で彼女とのツーショットを完璧に撮りたいというのなら諦めてください。現地にいる、写真が好きそうなおっさんに声をかけて、おだてながら撮ってもらってください。

というわけで、今回の作例でめざすとりあえずの完成品がこちらになります。

完成品

最初の作例とはまったくの別物ですね。機材も手法もなにもかも違います。シャンデリア前のカップルの足がなくなってるのは気にしないでください。きっと天にも昇る気持ちなんでしょうよ。

この写真を撮るのに使用した機材は、三脚、一眼レフカメラ、リモートレリーズだけ。フラッシュは使いません。三脚でしっかり固定した上で、RAWフォーマットでHDR撮影をします。今回は、カメラのHDR撮影機能を使いました。

最近のカメラには、本体だけで完結するHDR撮影機能があるので、それだけでもいけそうな気がしますが、こだわり派にとってはこの本体HDR機能はダメダメなのです。なぜか?

ダメ1:JPEGでHDRが作成される

カメラでHDR画像を作ると、JPEGフォーマットでHDR画像が生成されます。センサーで撮ったままがRAW(生)フォーマットなので、カメラ内で作られた画像はもう生画像じゃないからJPEGというのは理にはかなっています。しかし、JPEGフォーマットというのは「もうこれ以上いじらない完成品」というならよくても、レタッチを前提とする素材として使うには不便な形式です。

ダメ2:画角がなぜか小さくなる

百歩譲ってJPEG形式をよしとしましょう。しかし、なぜか画角が小さくなるのはいただけません。おそらく、手持ちでHDR撮影をしたときに起きがちな周辺のズレを調整するためだと思うのですが、ただでさえAPS-Cセンサーのカメラはレンズ焦点距離を活かせていないのにさらに狭くなるのはいけません。フルサイズセンサーのカメラならいいってものでもありません。クロップはあくまで撮影者の意思ですべきことで、カメラが勝手に切っていいものではないのです。

こういったダメ要素を除くと、「RAWフォーマットで撮った3枚以上の画像からHDR合成して、RAWフォーマットの画像を得る」が理想形となってきます。とはいえ趣味だからできる話で、はたしてプロがこんな時間生産性が最強に悪い方法を取っているのかと言ったら取らないかもしれませんけれども。

ステップ1:RAWフォーマットで撮影する

RAWで撮るのはかんたんです。単にカメラで設定するだけです。
HDR撮影については、お手元のカメラのマニュアルをご覧ください。
そんな機能ねーよっていう場合は、以下を参考に撮影してください。

・Avモード(絞り優先オート)にする
・適正露出/マイナス3段/プラス3段の露出補正で撮影する
ことで、同じ画像を得られます。得られますが、1セット撮る時間が設定変更ぶん伸びるので、同じ人が画面内に複数存在するゴースト現象が起きやすくなりますのでご注意ください。

夜景撮影の基本のキ

撮影にあたってもいくらかノウハウがあります。全部書くと長くなるので、ポイントだけ絞ってお伝えします。

  • ISO感度は設定できる範囲でもっとも低くする(ISO50~200)
  • 風のある日を避ける(ブレ防止)
  • 三脚はある程度丈夫なものを使う(ふらつき厳禁!)
  • リモートレリーズを使う(ブレ防止。ない場合、セルフシャッター機能を使う)
  • 絞り優先AEモードにする
  • 絞りの数値は高めにする(8~11)

さて、まずカメラが撮ったHDR合成前の3枚を見てみましょう。
最初は、カメラ的に適正露出だと言い張る画像。

てめぇどこが適正なんだ

次に、プラス3段の露出補正がかかった画像。

輝きすぎ

最後に、マイナス3段の露出補正がかかった画像。

シャンデリアのディテールだけ完璧

これを、Adobe Lightroom CCのHDR生成機能を使って合成するとこうなります。

HDRかつRAWという最強の素材

ちなみに、カメラ内で生成されたHDR画像がこちら。

デュアルDIGIC6のがんばり

ソフトウェアで合成したHDR画像がカメラ内HDR機能より明るく仕上がっているのは、合成した上でLightroomが自動で露出補正をかけているからです。

ここで大事なのは、Lightroomで合成したHDR画像はJPEGではなくAdobeのRAWフォーマットであるDNGファイルになっているというところです。
RAWファイルというのは、補正をどれだけかけまくっても、それが元画像に適用されるのはJPEGになる一回だけということ。JPEG画像は、10ステップのレタッチをしたら元画像に10回手術が行われます。その過程でどんどん画質が傷んでいくんですね。下手くそな美容外科医に10回メス入れられるより高須先生に1回で完璧にしてもらったほうがいいのと同じです。

JPEGは素材には向かない

さて、JPEGというフォーマットは明暗差がある画像がもともと苦手です。
というのは、JPEGは8ビット、つまりRGB各色255段階でしか情報を持てません。各色255段階なので合計24ビットで1677万色ということになっています。
つまり、一番暗い箇所と一番明るい箇所までを255段階までしか分けられないんですね。今回の作例のように明暗差が極端にあると、暗いほうか明るいほうどっちか、または両方が雑になります。すると、明るい方(この例だとシャンデリア)がRGBで255、つまり完全な白になってしまいます。白はなにをどうしても白(というか無)なので、補正しても、本来そこにあったはずの情報を取り戻せなくなります。

対して、カメラが記録するRAWフォーマットはだいたい14ビット、つまり16384段階で明るさを記録しています。まさに桁違いです。もちろん、最終的にはJPEG、つまりRGB各色256段階にはなりますが、レタッチする上では大きな差になってきます。すこしでも情報が残っていれば、そこを補正することであったはずのディテールを取り戻せるからです。また、暗部を持ち上げて暗くするときもかなり効いてきます。

ステップ2:Adobe Lightroomで補正する

さて、HDRかつRAWという最強の素材を手に入れたわけですが、これを今回の仕上げに持っていくには、色温度やレンズごとの補正、シャープネスやノイズ除去などのこまかな補正のほかにもう1ステップ必要です。面倒ですが、面倒でもやってしまうのが趣味というものです。仕事だったらやってられるかこんなもん。

円形フィルター機能で明暗差を補う

Lightroomの円形フィルター機能を使い、シャンデリアをただの真っ白い光源でない範囲にとどめつつ、周囲をある程度明るくしてみましょう。

まず、シャンデリアのこまかなディテールが残る程度に全体の明るさを設定します。

シャンデリアのディテールを残して色温度を補正し、水平を取った状態。

当然ですが、周囲が暗くなります。そこで、Lightroomの円形フィルター機能を使って、シャンデリア以外に対して+2.0の露出補正をかけてやります。
このフィルター機能は賢いので、境目はほぼわかりません。

なお、+2.0という補正はかなり大きい補正なので、JPEG画像に対してかけるとカラーノイズがふんだんに出たり、コントラストが失われた画像になりがちです。豊かな階調情報を持つRAWだからこそこんな大胆な補正が可能になるのです。

シャンデリアには影響しないように+2.0の補正をかける

ここまできたら書き出して完成となります。

RAW画像はスキルアップを過去の画像に適用できる

RAW現像のいいところは、新しい方法や技術を身に着けたら、それを過去の画像に使えるという点があります。今回の方法よりさらにいい方法が見つかったら、それを試すことでよりエモい画像を生み出せるというのが、RAW撮影する最大の利点だと言えます。HDDはすげー勢いで減りますけどね。まぁ今や4TBのHDDが1万円切るしいいやと思ってます。

ではみなさまよいカメラライフを