魚眼レンズ楽しすぎ問題
写真とは「真実を写すもの」
写真という日本語は、その字の通り「真実を写す」という意味です。
もっとも、現実はそんなに美しいものではなく、撮影者の切り取り方如何でどうとでもなります。ピューリッツァー賞受賞作品としてあまりにも有名な「ハゲワシと少女」も、実際はあの写真から受ける印象とはまったく異なるものだったとされています。
そんな小難しい哲学の話をしたいわけじゃないんでした。えっと、カメラレンズはできるだけ直線は直線に、曲線は曲線に、中心から周辺まで歪みなく撮影できるよう、各メーカーの技術者がこだわって何枚ものレンズを組み合わせて設計しています。
しかし、そういった流れの対局にあるレンズがあります。
それが、今回紹介する「魚眼レンズ」です。
英語だとFish-eye Lensなので直訳です。
魚眼には「対角」と「円周」がある
ひとくちに魚眼レンズと言っても2種類あり、今回購入したのはキヤノンの『EF 15mm F2.8 フィッシュアイ』で、「対角魚眼」と言われるタイプです。発売は1987年(昭和62年)4月といいますから、なんと33年以上前。平成でさえありません。昭和です、昭和。知ってますか? 昭和。
もう1種類は「円周魚眼」といい、なんと周囲360°が円形に撮れるという、こっちも非常に特徴的なレンズなのですが、使いみちがあまりに限られるので、使い勝手のまだしもいい「対角魚眼」レンズにしています。
フィッシュアイレンズは、なんといっても周辺がぐにゃりと歪んだ強烈な表現が最大の特徴です。レンズそのものの外観自体は意外と普通です。超広角レンズというと、前玉がシティーハンターのもっこりかってくらいありえないくらいデカく出っ張ってるものですが、このレンズの前玉はさしずめちっぱいです。
焦点距離は15mmと、この数字がもっと小さいレンズはいくつもありますが、それらでも対角画角が110~126°程度なのに対し、この「対角魚眼レンズ」は180°。つまり、レンズの先端部からちょっとでも前に出ていると写り込むということになります。
百合子の塔こと東京都庁を魚眼でドン
さて、文章でながなが語るより写真なのですから画像で見てみましょう。どん。
これはかなり有名ですね。東京都庁の真正面、東京都議会議事堂エントランス前で地面スレスレから撮った写真です。周辺にかけて強烈に歪んでますね。
まっすぐ立っている都庁の建物も樽型に歪んでいます。
正面から、仰角なしで正対するかたちで撮ると中央に置いた被写体はさほど歪まず、仰角をつけたり周囲に配置した被写体がめちゃ歪むのが対角魚眼レンズの特徴です。
ちなみに、焦点距離16mmの超広角レンズで同じ場所から撮った写真がこれ。
中央の都庁は1mmぶん広く写っていますが、歪んでる以外おおまかな大きさに違いはありません。しかし、左手側の都庁第二庁舎、右手側のハイアットリージェンシーの写ってる範囲と位置がめちゃくちゃ違うのがわかると思います。なにより、左右から翼で包み込むような回廊が16mmレンズのほうにはほとんど写っていませんし、都議会議事堂のエントランス部分はまったく写っていません。
もうひとつ行ってみましょう。こちらは右側に移動して撮ったもの。
そして、似た場所から16mmレンズで撮ったものがこちら。
右手に写っている植木と朱色の突き出た構造物の間から、めちゃがんばって歪んだ感じを出そうとしたのがこちら(笑)
超広角と呼べるレンズでもこれが限界なんですが、これのちょうど反対側、正面向かって左側から魚眼レンズで撮ったものがこれ。
真っ直ぐなものを真っ直ぐ写すことが非常に困難という、およそ建築物を建築物として撮るにはまったく不向きなレンズではありますが、この歪みこそが魚眼レンズの真髄たる表現であり、同じ場所からであっても地上からの高さと仰角次第でまったく別の写真になってしまうという、ハマるとものすごい破壊力のあるレンズです。
すかっと吹き抜け!新宿NSビルを魚眼でドン
そして、この対角180°という武器は、縦位置で撮ったときでも有効です。
都庁からほど近く、地上から屋上までまるっと吹き抜けるという、新宿エリアの坪当たりの単価を考えるとものすごく贅沢な床面積の使い方をしている新宿NSビルの1階から縦位置で撮った写真がこちら。
同じ場所から普通の16mmレンズで撮ったものがこちら。
かなりがんばってみましたが、屋上と1階を同時に写すのはこれが限界でした。
魚眼レンズだと、1階の真ん中に設置されたクリスマスツリーはもちろん、幾何学的な床や、4方を囲む壁、天井からツリーに降り注ぐ光の具合まで撮れています。
ちなみに横位置だとこうなります。特徴的な渡り廊下まではしっかり写っています。通常の16mmではどうやっても無理です。
「君の名は」の聖地!西新宿サインリングを魚眼でドン
新宿といえばもうひとつ、映画「君の名は」でも登場した新宿の円環型信号のある交差点、正式名「西新宿サインリング」をご紹介してこの記事を終わろうと思います。
右上のビルは当然実物は真っ直ぐです。この超デフォルメされた湾曲表現を活かしてこその魚眼レンズと言えましょう。
低めからアオリ気味に撮ったもの。普通のレンズでは到底不可能な、サインリングの円環をまるっと撮れてしまいます。魚眼レンズマジ楽しいよ。
昭和の時代のレンズとはいえ、描写はかなりシャープ。周辺の色収差はそれなりにありますが、Lightroomの色収差除去ですっかり取り除けるので問題はありません。特殊なレンズなので、お値段は中古でも4万円台後半ですが、ちゃんとAFも使えるしひんやりずしっと来る金属鏡筒が凝縮感あってかっこいいです。
何もしなくても、レンズキャップは自重で落下します。
この「EF15mm フィッシュアイ F2.8」最大の問題は、かぶせ式のレンズキャップに保持力がまったくないこと。金属製のレンズキャップが標準でついているのですが、ごくわずかに植毛加工されてはいるものの、サイズの合ってない下着のようにすかすかとキャップが外れます。
言い換えると、レンズポーチから取り出すと勝手にレンズキャップが外れます。普通のレンズのようにレンズキャップをレンズの縁にぱちんとはめるように固定することは不可能です。このレンズをカメラにつけっぱで散歩するときは常にむき出し状態で持ち歩くことになりますのでご注意ください。というかこれキャップって言わない。カバー?
そんなレンズなので、レンズポーチが逆に必須です。レンズを裸でかばんに放り込むなどもってのほかです。ゆるやかなちっぱい、もとい前玉がすぐにホコリだらけの傷だらけになってしまいます。小さなものでいいので、レンズポーチは欲しいところですね。
スマホのカメラ機能が際限なく進化していき、8K動画さえ撮れるようになった今、デジタルカメラは売上を落とし、市場を失い、いくつものメーカーが撤退していきました。レンズを複数搭載するという手法で、レンズ交換式カメラのように手軽に焦点距離を変えられる能力まで手にし、デジタルカメラが普及するまでがそうだったように、カメラは再び趣味性の強い製品に戻ろうとしています。
そんな中でも、デジタルカメラでしか撮れない写真はまだあると思っています。そのうちのひとつが、魚眼レンズです。一時期話題をさらった「鼻デカ犬」もこの魚眼レンズを使い、最低焦点距離ギリギリまで近づいて撮った写真です。
写真で遊ぶという意味ではこれほど面白いレンズもそうありません。機会があればぜひ一度使ってみてほしいレンズです。
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